かつおは春先に黒潮に乗ってやってくる。まず3月に九州の南端、枕崎・山川(鰹節一大生産地として知られている)辺りでその年の水揚げ第一号の話題を聞くことが出来る。次いで、かつお料理と男も女も日本酒を豪快に飲み乾すイメージが余りに有名な土佐の高知でかつおの水揚げで賑わう市場の様子が報道される。
『目に青葉山不如帰初がつを』と詠まれる5月、と言っても江戸時代の歌だから旧暦の、今で言えば6月ごろか、関東でもいよいよかつおが食卓に登り始める。今は流通手段が発達しているので、九州や四国の太平洋岸で取れたかつおが3月4月ごろから店頭に並ぶことも珍しくなくなった。
もっともこの時期のかつおは何しろ若いので味に深みが無い。あっさりとした味を愉しむ、その程度で妥協しなければならない。かつお好きにはたまらない脂がしっかりと乗った戻り鰹が手軽に入手できるのは今からだ。かつおは本州北端まで上がったあと再び南下し始める。南下し始めたころから身に脂が乗り始める。
初鰹と違い、戻り鰹には脂が乗っている分、寄生虫も多い、だから初鰹は刺身で食えても、戻り鰹は専らたたきで食うのだ、と言われている。水揚げから市場まで余り時間の掛からない最近ではそういうことも無いだろうし、店頭に並ぶ前に十分した処理が出来ているだろうから、おっさんは安心して旬の戻り鰹をそのまま刺身で食っている。
脂の乗った戻り鰹の表面を火であぶってつくりにし、茗荷、大葉は千切りに、ニンニクを薄切りにして上から満遍なくたっぷりと振り掛け、その上からポン酢を掛けてそのまま食らう、これまた実に美味い!
かつおの唯一の難点は足が早いこと。パックに『生食可』と書いてあっても、一旦においが出始めるととても生では食べられたものではない。そんなときはわが身の不運を嘆きつつ、ニンニクとしょうがを混ぜたしょうゆに30分ほど漬け、フライパンで焼けばこれはこれで何とか食べられるし、元々マグロと同じ肉食のかつおはこうして焼いて食べでも美味いものだ。
かつおの水揚げでは有名な千葉の勝浦や銚子は共におっさんの家から車で1時間ほどで行けるのだが、せりが終わった後の市場の前の店で売っているかつおの半身をそのままアイスボックスに入れて持ち帰り、家で捌いて食べる美味さは格別だ。内臓は店で取ってもらうが、皮はつけたままのほうが断然良い。皮付きとそうでないのとではなぜこんなに、と思うほど味が違う。
かつおが1本、半値以下で売られていることがある。これは揚がってから一日以上経ったもので既に臭いが出始めているだろうから例え産地であっても買わないほうが良い。『時間の経ったかつおはほほがほのかなピンク色をしている』理由は聞けなかったが、産地では正直にそんなことも教えてくれる。
そうそう、かつおにはしょうがやニンニク以外にもお勧めの薬味がある。それは溶き辛子。敬愛する作家、池波正太郎の食に纏わるエッセイに書いてあり早速試してみたらなかなかだったので、以来必ずかつおには溶き辛子を添えている。
薬味は本来毒消し、流通に時間の掛かった江戸時代、女房を質に入れてまでも江戸っ子が食べたがった初鰹は口に入るころには既にかなり痛んでいて時には食中毒になったこともあっただろうことは想像に難くない。
日本はまことに豊かな国だ。特に海産物の豊富さでは世界随一だろう。そんな新鮮な海産物を手軽に入手できる。
五島列島海鮮工房
かつおにはなんといっても良質の日本酒を冷(常温)で。甘口は論外だが、近頃ブームの端麗辛口の酒の中には端麗が過ぎて酒の味に乏しいものもある。結局好みなのだが、おっさんは基本的に純米酒を選んでいる。口にしてみてこれは、と思ったものは瓶裏正面に酒造米や杜氏の名前、精米歩合、日本酒度などの表記がある。
大手有名ブランドは無難だが、なぜかこれは、と言うものに出会ったことが無い。その点、土地の新鮮な魚貝にこれまたその地の地酒を合わせると外れはまず無い。
これから暫く至福のときが続く。
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